cinema

ノマドランド

ノマドランド を観に行きました。

あなたの人生を変えるかもしれない、特別な作品
─ EVENING STANDARD誌 ─

期待度

★★★☆☆(3/5)

満足度

★★★★★(5/5)

また観たい

★★★★★(5/5)

感想

連休は半年ぶりに映画でもと思い、以前から気になっていたノマドランドを観に行ってきました。
アメリカ公開が2月、日本公開が3月なのでだいぶ長いことスルーしていましたが、その間にいろんな賞を受賞していたようです。
『ノマドランド』アカデミー賞 作品賞・監督賞・主演女優賞 最多3部門受賞!

中国出身のクロエ・ジャオ監督がジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、実際の車上生活者を起用した作品です。
主人公のファーン役は「スリー・ビルボード」でアカデミー主演女優賞を獲ったフランシス・マクドーマンドですが、個人的には「ファーゴ」の警官役が好きです。
ファーゴ [Blu-ray]

その日は最終上映で客席ガラガラ。連休初日ですが翌日お仕事の方もいるだろうし、コロナの影響もあってか客足は少ないですね。伸び伸び観れました。
今回も特に前情報なくトレーラーも見ずにふらりと映画館へ行って観たのですが、観たあとの数日間は物思いに耽ってしまい頭から離れませんでした…
定住せず移動しながら生きる人への憧れは昔から多少なりともありますが、その実どんなに大変かを想像すると容易にはマネできない生き方です。

序盤でファーンがホームレスをハウスレスと言い換えたように、物理的な家(ハウス)があるかどうかの如何に関わらず、自分が落ち着く場所(ホーム)は心の中にある。そんなノマドの暮らし方や思想は『概念』の集合体であり、仏教哲学そのものでした。

途中で結婚指輪の話をするシーンがあるのですが、「指輪はリングで円。リングに終わりがないように愛にも終わりがなく永遠に続いてゆくもの」という考え方。概念的にすべてのことに当てはまり、なるほどなーと深く腑落ち。

ファーンは「砂漠の集い」というイベントを主催するノマド生活支援者のボブに出会います。このボブは俳優ではなく実際のノマド生活者で、YouTuberや作家でもあるボブ・ウェルズ本人だそうです。
ボブ曰く、出会いは嬉しく別れは寂しい。だから「さようなら」を言わない「またいつか」で別れられる距離感でありたい、という言葉には悲哀と希望が込められており、胸の内を掴まれました。
実際に自分の人生に当てはめてみても、若い頃の出会いは希望や楽しさに満ち溢れているのですが、歳を重ねるほどに別れのほうが多くなっていくのは逃れようのない事実だと実感しました。

ここまでこの映画に共感できるのは、私自身、コロナ禍で在宅ワークになってからかれこれ1年以上経ち、ファーンのノマド生活と自分のリモート生活には共通したところがあると思ったためです。家があるのとないのでは仕事や生活の安定感が全く違うかもしれませんが、何をするにも基本は一人。うれしい時も悲しい時も自分と向き合い感情を昇華させる。自由と孤独の両方を持ち合わせています。

タイヤのパンク修理のお金を借りるために妹夫婦の家を訪れたファーンは「ノマド生活を続けるのは勇敢で正直な人だからこそ」と尊敬とも慰めともとれる言葉をかけられますが、家を持ちその場に居続けることは何かしら心に嘘をつかないといけないし、そこから離れるには大変な勇気がいる。と同時に並大抵の決心ではできないと現実を再度突きつけられるシーンでもありました。

印象的なシーン

劇中ファーンが2度だけ人前で感情を露わにするシーンがありました。
大切にしていた器を割られたときと、資本社会への怒りをぶつけるときです。
このふたつだけを取り上げてみても、この映画の言わんとすることが詰まっている気がします。

再会した青年に暗唱して聞かせたシェイクスピアの詩、

君を夏の日に喩えようか?
君はもっと素敵で穏やかだ。
荒々しい風は5月の可憐な蕾を揺らし、
夏のかりそめの命は短かすぎる。
太陽は時に暑く照りつけ、
黄金の顔が暗く翳るときがある、
美しいものみないつかは衰える、
偶然か、自然の成り行きによって刈り取られる。
だが君の永遠の夏は色あせない、
君に宿る美しさは消えることはない、
死神に死の影をさ迷っているとは言わせない、
永遠の詩にうたわれて時と合体するならば、
 人が息をし目が見えるかぎり、
 この詩が生き、あなたに命を与え続けるかぎり。
ウィリアム・シェイクスピア「ソネット18番」

愛情を言葉にするとこんなに美しくなるものかと、ずっと心に残りました。

途中で流れる繊細なピアノ曲が切ないながらも力強く、厳しい状況下でもしなやかに生きる人たちの生活そのものを表しているようでした。

その後レンタルで「スリー・ビルボード」も観たんですが、すっかりフランシス・マクドーマンドのファンになりました。声も表情も大好きに。
スリー・ビルボード [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

備考・グッズなど

また何度でも観たい!と思っていたところ、Blu-rayが6月23日に発売されるようです。
ノマドランド ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]

キノシネマにて。